【お知らせ ヨーロッパ視察概要予定②~後半はイタリアの空き家を活用した地域再生の現場です】


実はイタリアの日程の詳細は
まだつかめていないところがあり
おおまかな日程と
今回、同行してくださるかとうけいこさんから
たいへんお世話になったとうかがっております
前イタリア日本国大使館一等書記官 山崎雅生さんの論文を
転載させていただきます。

(概要)
〇アルベルゴ・ディフーゾによる地域再生の現地視察(18日~22日 5日間 2か所)
〇ミラノ博視察(23日 1日)

(以下 転載)
ほくとう総研 NETT NO88 より転載
※写真、グラフなどは
 こちらでは転載できませんでしたので、 
 ご関心ある方はこちらのサイトでご確認ください。
 http://www.nett.or.jp/nett/pdf/nett88.pdf

イタリア発の新たな形態のホテル「アルベルゴ・ディフーゾ」
~その概要と北海道での導入について~

海外調査研究

在イタリア日本国大使館
一等書記官 山 崎 雅 生(当時)

1.はじめに
 少子高齢化の進行や、若年層を中心とした
都市部への人口流出によって、地方の過疎化
は全国的な問題となっている。この過疎化に
よって空き家 ・ 空き店舗が増加し、街の景観
や治安の面から問題となっている。北海道で
も、空き家 ・ 空き店舗の増加は進んでおり、
その対策が課題となっている。
 この空き家や空き店舗をホテルの部屋とし
て活用し、それによって新たな観光客を呼び
込み、地域を活性化させようという、新たな
ホテルの形態がヨーロッパに広まりつつある。
イタリアで生まれた「アルベルゴ ・ ディフー
ゾ」と呼ばれる、この新たなホテルの形態の
概要と北海道での導入について述べたい。

2.空き家・空き店舗の現状
 総務省の平成25年住宅 ・ 土地統計調査(速
報集計)によると、日本の空き家数は約820万
戸で、5年前の同調査より約63万戸増加。空
き家率は、13.5%と過去最高となった。北海
道についても、空き家数は約38万8千戸と、
同じく5年前の調査よりも1万4千戸増加し、
空き家率も14.1%で全国平均を0.6ポイント上
回り、過去最高となった。過去の推移を見る
と、バルブ期に空き家率が若干減少に転じた
ことはあるものの、空き屋数、空き家率とも
に上昇トレンドにある。
 空き店舗の状況については、中小企業庁の
平成24年度商店街実態調査によると、全国の
1商店街当たりの空き店舗数の平均は6.0店、
空き店舗率は14.6%と3年前の同調査より3.8
ポイント増加した。北海道については、1商
店街の当たりの空き店舗数の平均が9.0店、空
き店舗率は16.9%といずれも全国平均を上回っ
ている。
 放置された空き家の増加は、防災、防犯、
衛生や景観等の面から、隣接する建築物や周
辺に悪影響を及ぼし、空き店舗の増加はシャッ
ター街を産み出し、商店街そのものの活力や
魅力を損なうこととなる。空き家 ・ 空き店舗
の増加は、様々な面で街の魅力を損ない、さ
らなる住民の流出を招く等、負のスパイラル
を引き起こしかねないものである。

3.アルベルゴ・ディフーゾの概要
⑴ アルベルゴ ・ ディフーゾとは
 こうした空き家 ・ 空き店舗を活用し、観光
客を呼び込み、地域を活性化させようして始
まった宿泊形態が「アルベルゴ ・ ディフーゾ」
である。イタリア語で、アルベルゴとはホテ
ル、ディフーゾとは分散 ・ 拡散を意味する。
直訳すれば「分散したホテル」となる。
 一般的なホテルが、1カ所の施設でサービ
スを提供するのに対し、アルベルゴ・ディフー
ゾは、集落内の複数の建物を利用する。集落
の中心部に受付を設け、そこから一定の範囲
内の空き家 ・ 空き部屋、空き店舗等を宿泊部
屋やホテルの施設として活用する。従来のホ
テルが一つの建築物内で上下に展開する「垂
直型ホテル」とすれば、アルベルゴ ・ ティフー
ゾは、集落内で面的な広がりをもった「水平
型ホテル」と言える。また、イタリアのホテ
ルの基準では、レストラン ・ 食堂の併設が義
務づけられているが、アルベルゴ ・ ディフー
ゾの場合、わざわざ作る必要がなく、集落に
レストランが1件でもあり、それを活用する
ことができるのであれば、ホテルとして認め
られる。新たな施設を作る必要はなく、集落
の既存の施設を最大限活用するのである。

⑵ アルベルゴ ・ ディフーゾの始まり
 アルベルゴ ・ ディフーゾの始まりは、1976
年に北イタリアを襲ったフリウリ地震による
震災復興である。スロベニアとの国境に面し
たフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州を襲っ
たこの地震は、77のコムーネ(イタリアの基
礎自治体)に、死者939人、負傷者2,400人と
大きな被害をもたらした。イタリア政府等は
震災復興策として、壊れた家の再建や改修、
補修等を実施したが、親戚などを頼りコムー
ネを離れる住民もおり、多くの空き家が発生
した。地震の被害に加え、住民の減少、空き
家の増加によって、コムーネの活力は失われ、
経済的にも疲弊し、更なる住民の流出、空き
家の増加を招いた。当時、観光や地域活性化
のコンサルタントであったジャンカルロ・ダッ
ラーラ氏が、この地を訪れ、この空き家をホ
テルの部屋として活用し、観光客を呼び込み、
コムーネを活性化させようと考えたのが、ア
ルベルゴ ・ ディフーゾの始まりである。その
後、この新たな形態のホテルは、過疎に悩む
イタリア各地の小さなコムーネに拡がり、現
在、上述のジャンカルロ ・ ダッラーラ氏が会
長を務めるアルベルゴ ・ ディフーゾ協会公認
のものだけでもイタリア国内で84カ所にもな
る。さらに、この新たな形態のホテルはイタ
リア国内にとどまらず、スイス、クロアチア
など欧州各地にも広がりを見せている。

⑶ アルベルゴ ・ ディフーゾの魅力
 これらのアルベルゴ ・ ディフーゾのある場
所の多くは、非常に小さなコムーネで、これ
までホテルはおろか、簡易な宿泊施設さえな
かったところもある。ホテルなどでは、建設
費など大きな初期投資に加え、運営の面でも
コストがかかるため、ある程度の規模の宿泊
客が必要となる。しかしながら、アルベルゴ ・
ディフーゾの場合、宿泊部屋やレセプション
は空き家を、レストランはコムーネ内にある店
を活用すればいいだけなので、空き家の修復
費等の最低限の投資で開業することができる。
 一方で、観光客にとって、アルベルゴ ・ ディ
フーゾに宿泊することは、どのような魅力が
あるのだろうか。それは、これまで宿泊施設
がなく、観光客としては滞在することが難し
かった集落に、あたかもそこの住民として生
活するかのように滞在できることである。昔
から地元にある商店での買い物、地元の人が
集う、地元の食材を使ったレストランでの食
事、それらを通じた地元住民とのふれあいな
ど。これらは、観光客が集まる観光地で、一
般的なホテルに滞在したのではなかなか味わ
えない。さらに空き家が古い伝統的な建築物
で、それを改修したものであれば、空き家の
滞在そのものが、その地域の伝統的な生活体
験ともなる。しかも、ベッドメイキングなど
の一般的なホテルのサービスを受けながらで
ある。

4.カステルヴェーテレのアルベルゴ・ディフーゾ

 イタリア南部カンパーニャ州にカステル
ヴェーテレという人口1,700人ほどの村(コムー
ネ)がある。カンパーニャ州の州都ナポリか
ら車で1時間ほど内陸に入った山間にあり、
オリーブ栽培などで生計を立てている小さな
農村である。景色はすばらしく、オリーブな
ど農作物も豊かな村だが、車ですぐの距離に
アマルフィなど、イタリア有数の風光明媚な
海岸リゾートエリアがあるため、観光客はこ
れまでほとんど訪れなかった。また、農業の
他に特に産業もないため、近年、過疎化が進
み、空き家も目立つようになってきていた。
 2013年8月、住民や周辺のコムーネなどの
協力を得て、アルベルゴ ・ ディフーゾを始め
た。このアルベルゴ ・ ディフーゾは、様々な
大きさ、設備を有した17の建物からなってい
る。総ベッド数50、レストランやバー、レセ
プションのほか、会議や式典も実施できるホー
ルもある。これらは、全て空き家 ・ 空き店舗
などの既存施設を改装 ・ 改修したものである。
また、レストランも併設されているが、休み
の日や満席の場合には、集落内の2件のレス
トランをアルベルゴ ・ ディフーゾのレストラ
ンとして使用している。さらに2015年3月に
は、地場の農産物を専門に販売する店も開店
した。これらは、コムーネ中心部の総面積の
約80%にも及ぶエリアに分散しており、大き
く3つの区画に分かれている。
空き部屋を宿泊部屋としたアパートがメ
インのエリア。また「Bottega」と呼ばれ
る伝統的な工芸品の土産品店もこの地区
にある。
 アルベルゴ ・ ディフーゾを運営する会社の
アゴスティーノ ・ デッラ ・ ガッタ会長による
と、2013年8月にオープンしたばかりで、宿
泊客はまだそれほど多くなく、年間数百人程
度だが、イタリア人だけでなく、欧米各国や
ロシアからも宿泊客が訪れているとのこと。
また、コムーネへの経済効果を尋ねたところ
「アルベルゴ ・ ディフーゾのオープンに合わ
せ、数人を雇用した。その他、村のガイドな
ど新たな雇用が生まれている。さらには、集
落内に新たな商店が5軒も開店した。また、
既存のレストランや商店を宿泊客が利用して
いるほか、コムーネの名前も少しずつではあ
るが知られるようになってきており、コムーネ
全体への経済効果は大きい」と話してくれた。

5.アルベルゴ・ディフーゾを北海道に

 地域経済の低迷が続くとともに、空き家の
増加が進む北海道、特に地方部において、こ
のアルベルゴ ・ ディフーゾを活用し、滞在型
の観光客を呼び込み、地域経済の活性化につ
なげることができるのではないか。
 ここ数年、北海道では、夏場には涼を求め
た本州からの、冬場にはパウダースノーを楽
しみに来た海外からの長期滞在の観光客が増
加している。アルベルゴ ・ ディフーゾは、こ
のような長期滞在の観光客に、一般のホテル
に滞在したのでは味わえない体験を提供する
ことができる。ホテルのサービスを提供しな
がら、あたかもその街で生活しているかのよ
うな滞在である。コンビニや大手スーパーで
はなく昔から地域にある商店での買い物、地
元の人が集まる居酒屋での食事、そしてそう
いった場での地元の人との交流など、その土
地の生活を実感しながら滞在してもらう。ま
た、これまでホテルがなく、観光客がほとん
ど来なかった過疎地でも、アルベルゴ ・ ディ
フーゾとして空き家 ・ 空き店舗を活用し、北
海道の田舎ならではの生活を味わってもらう
ことで、観光客を呼び込むことができるので
はないだろうか。
 アルベルゴ ・ ディフーゾを広めるためには、
様々な行政的な支援も必要となってくる。も
ともと民家や事務所などであった空き家 ・ 空
き店舗に観光客を宿泊させるためには、旅館
業法や建築基準法の規制緩和が必要となって
くる。しかしながら、法令の改正となると時
間が非常にかかる。イタリアでも、フリウリ
=ヴェネツィア ・ ジュリア州のアルベルゴ ・
ディフーゾ第1号は、法律的にはグレーゾー
ンで運営していた。その後、しばらくの間は、
他の地域にできたアルベルゴ ・ ディフーゾも
グレーゾーンでの運営が続いた。法律的に認
められるようになったのは、1982年、サル
ディーニャ州が州法でアルベルゴ ・ ディフー
ゾを位置づけたのが初めてであり、その後、
イタリアの各州も州法を制定し、認めていっ
た。
 また、使われていなかった空き家 ・ 空き店
舗を、観光客が宿泊できるようにするための
リフォーム費の補助や低利融資など、財政的
な支援も求められるであろう。同じくイタリ
アでは、州政府の補助の他、EU の基金を活
用している事例が多い。
 現在、我が国では、様々な特区制度がある。
この特区制度を活用すれば、法律そのものの
改正をせずとも、地域限定で規制緩和や財政
的な支援を実施することができるようになる。
空き家 ・ 空き店舗問題の解決と低迷する地域
経済の活性化を可能にする、アルベルゴ・ディ
フーゾという新たな試みを、この特区制度な
どを活用し、北海道で展開してみてはどうだ
ろうか。


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